top of page
検索
  • 執筆者の写真矢野修三

『外から見る日本語』228

更新日:2021年6月19日

    2021年5月バンクーバー新報掲載

☆ 「呼称文化」の戸惑い


先日、ダウンタウンに用事があり、久しぶりにスカイトレインに

乗った。もちろん乗客はすべてマスク着用。マスク姿もすっかり

板に付き、文化として定着するような勢いである。途中の駅から、かなり年配の夫妻が乗ってきた。乗客も少なかったが、

なぜか右側と左側、別々に座った。そしてこんな会話が始まった。名前は聞き取れなかったが、「○○、こっちのほうがきれいだよ」「○○、こっちのほうがいいわよ」こんな感じである。


 この情景を見て、もちろんここはファーストネームで呼び合う文化だが、

思わず「いい年して・・・」と、感じてしまった。こんな場合、日本では

「ばあさん」や「じいさん」と呼ぶであろうし、まして名前の「太郎」や「花子」などは

ほとんど使わない。


 いろいろ文化の違いを考えながら、こんな体験を思い出した。バンクーバーに移住して

間もない頃、日本語上級レベルの生徒に招かれて、奥さんの手作り料理をご馳走になった。そして翌日「奥さんの料理とてもおいしかったよ」とお礼のメールを入れた。次の授業の

とき、彼、少し笑いながら「先生、妻の料理おいしくなかったですか?」である。

「え、おいしかったよ、でもどうしてそんなこと聞くのかな」と逆に質問した。


 すると彼曰く、先生のメールをキャサリンに伝えたら、「どうして私の名前がないの?」である。最初は意味がよく分らなかったが、「奥さんの料理」この表現が気になったとの

こと。なぜファーストネームを使わなかったのか・・・、

「先生、料理がおいしくなかったからかも?」、冗談もあろうが、二人でこんな議論に

なったとのこと。うーん、なるほど、申し訳なさも感じたが、文化の違いも強く感じた。

確かに、こちらでは「キャサリンの料理」というのがごく自然なのであろう。でもその時はまだ慣れておらず、「奥さんの料理」になってしまった。


 このファーストネームの文化は個人尊重の立場からも大事であり、確かに慣れればとても便利である。日本でも若い世代はかなり一般的になっているようだが、シニア世代はまだ

戸惑いを感じる。人込みの中に夫や妻を見つけて、なんと声をかけたらいいか、困った

経験をお持ちの方も多いのでは・・・。


 はるか昔、日本で小学校のPTA活動をしていたとき、ときどき役員のお母さんに電話を掛けた。電話口に子供の声が聞こえたら、「お母さん いる?」と言える。しかし大人びた男の声が聞こえると困ってしまう。「お母さん」か「奥さん」どちらを使うか・・・。

何回か間違えて、バツの悪さを経験した。こんなとき、ファーストネームを使えればとても便利である。でも当時、「花子さん、お願い」、まして「花子」などと言ったら、

家庭騒動にもなりかねない。まさに文化の違いである。


でも、こちらの行きつけの銀行などで、初めて会う若い担当員から「Hi Shuzo」と呼ばれると、あんたにファーストネームで呼ばれたくないよと、つい思ってしまう。

「郷に入れば郷に従え」だが、まだ戸惑いを隠せない日本語教師である。



YANO Academy

 ☆ 日本語教師養成講座    ☆ 外から見る日本語講座      

         ≪ オンライン講座 ≫

  TEL   778-834-0025

 メール: yano@yanoacademy.ca

 ホームページ: https://yanoacademy.ca

閲覧数:80回0件のコメント

最新記事

すべて表示

「ことばの交差点」 14

日加トゥデイ 2024年2月号 掲載 ◎ 日光は「結構」です ! 先ずは、こんな会話を・・・ お客 「これ、結構なメロンね~」 店主 「はい、結構売れていますよ。奥さんもいかがですか」 お客 「でも値段もなかなか結構ね、今日は持ち合わせがないから結構よ」 店主 「奥さん、お金なんかいつでも結構ですよ~」 日本語における、曖昧な表現の一つとされているこの「結構」だが、日本人はこんなわざとらしい会話で

「ことばの交差点」 13

日加トゥデイ 2024年2月号 掲載 ☆ 「魚」のぼやき ? 日本語上級者との新年会ではいつも「干支(えと)」の話をしているが、今年は「星座」もちょこっと話題にした。実はこの星座だが、ナント、干支と同じように、中国から奈良時代ごろに伝わってきたとのこと。さらに、17世紀の江戸時代に、中国の星座を手本に、 日本独自の星座を作った天文学者がいたことを最近知って、びっくり仰天。 星座はてっきり古代ギリシ

「ことばの交差点」 12

日加トゥデイ 2024年1月号 掲載 ☆ 「何で帰るの?」 の返事は・・・ 明けましておめでとうございます! 今年は辰年、何卒幸せ多き年になりますように。 昨年末から日本語が大好きな大学生に、オンラインで日本語を教え始めた。彼は 上級レベルを目指しており、やる気満々。とても教え甲斐がある。とりあえず週に一回、何曜日にしょうか、と電話で打ち合わせた。彼の能力を試す目的もあり、 ワザと意識的に「なに曜

bottom of page