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執筆者の写真矢野修三

「ことばの交差点」 15

      日加トゥデイ 2024年4月号 掲載


◎ 「孫の手」は家族の温もり !


 突如として、うれしき孫持ち爺ちゃんになったので、友人や生徒の皆さんからいろいろ

お祝いの言葉をいただき、某(それがし)の周りには「孫」に関する話題がよく出るように

なった。


 先日も、このエッセイが読めるレベルの上級者2人とお花見勉強会を。その席で

「爺ちゃん先生、おめでとうございます。またお孫さんと会いたいでしょう」。ちょこっと冷やかされてしまった。


 そこで、ちょこっと孫に関するこんな諺を話題にした。「孫は目に入れても痛くない」である。するとすぐに、目などには入らないですが、「孫はかわいい」を強調した言い方ですよね、と答えた。うーん、さすが上級者、大したもんだが、英語にも「the apple of my eye」のような「eye」を用いた同じような意味のproverb があると聞き、びっくり。


 ではもう一つ、「孫は来てよし、帰ってよし」。これには2人顔を見合わせて・・・、

よく分かりません、である。分からなくて当たり前田のクラッカー。これはかなり昔の諺であり、昨今はほとんど使われていないが、日本人であれば若者世代でも、そこはかとなく分かる。爺ちゃん・婆ちゃんにとって、孫が遊びに来てくれるのはとてもうれしい。でも長くなると、体力的にも金銭的にもかなり大変で・・・、帰る時はホットする。これが本音かも。こんな説明をしたら、はっきり言わない日本的な表現で、おもしろいですね、と感心してくれた。


 すると、Aさんから「孫の手」の話が飛び出た。彼女曰く、背中をかく道具、日本語では「孫の手」ですね。すてきです。文化として家族のあたたかみを感じます。なるほど、おっしゃる通り。英語では「back-scratcher」とのことで、確かに味も素っ気もない。


 実は、かなり昔だが、「孫の手」について同じようなことを話題にした生徒がおり、その時は「孫の手」の語源など、分からず調べてみて、びっくりしたことを思い出した。


 この「孫の手」はナント、中国の古い伝説に登場する仙女「麻姑(まこ)」に由来するとのこと。この麻姑はすごい美人で、爪を長く伸ばしており、その長い爪で背中をかいてもらったら気持ちがいいだろうと・・・。そんな故事から中国で「麻姑の手」という言葉ができ、それが室町時代あたりに日本に入ってきたとのこと。江戸時代に「まこ」が「まご」になり、「孫の手」が生まれたようで、うーん、まことに驚きであった。


 確かに、こんなこと生徒にはあまり説明したくないが・・・。でも語源はともあれ、孫がお爺ちゃんやお婆ちゃんの背中をかく、そんな家族の温もりをイメージして、日本の古き文化としてこの「孫の手」という言葉が生まれ、育まれてきたのは間違いないであろう。


 生徒も最初はびっくりしたようだが、「先生、語源など聞かなかったことに・・・、それより平均寿命100歳の時代になりますから、『孫の手』から『ひ孫の手』に変えたほうが・・・」。なるほど、これには思わず笑ってしまった。


 この「孫の手」談議は文化も絡んで、上級者にはなかなか有意義である。でも「孫の手」で背中をかくたびに、美しき、悩ましき爪を想像してしまい、かゆくもないのに「孫の手」を手にする回数が増えそうで、少々心配でござる。





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