「ことばの交差点」 13
- 矢野修三
- 2024年2月22日
- 読了時間: 3分
日加トゥデイ 2024年2月号 掲載
☆ 「魚」のぼやき ?
日本語上級者との新年会ではいつも「干支(えと)」の話をしているが、今年は「星座」もちょこっと話題にした。実はこの星座だが、ナント、干支と同じように、中国から奈良時代ごろに伝わってきたとのこと。さらに、17世紀の江戸時代に、中国の星座を手本に、
日本独自の星座を作った天文学者がいたことを最近知って、びっくり仰天。
星座はてっきり古代ギリシャ神話が始まりだと思い込んでおり、ほとんど知識も
興味もなかった。でも星座に関して、日本にそんな歴史があったとは全く知らず、
学校で学んだ記憶もなく、いと不思議。
こんな星座の話をしたら、ある上級者から、私は「魚座」ですが、なぜ「さかな」では
なく「うお」ですか、の質問を受けた。うーん、確かに星座では「うお座」である。でも
生徒にすれば「さかな」のほうがはるかに親しい。これは「魚」の訓読みに、なぜ
「さかな」と「うお」と二つあるのか、の疑問であり、ときどき上級者から受ける怖い質問である。
これを説明するには、「酒の肴」に登場してもらわなければならない。この肴(さかな)の語源は「酒の菜」。昔からお酒には、いわゆる「酒のつまみ」が大事で、平安朝のころから野菜が主役だった。そこで「酒の菜」という言葉が生まれ、この「さけのな」が変化して「さかな」となり、中国語ですごい料理を表わす「肴」を日本式に「さかな」と読み、
「酒の肴(さかな)」という言葉が出来上がったとのこと。うーん、なるほど。
江戸時代になって、酒の肴は野菜ではなく、魚(うお)が大人気、肴といえば魚が主役に
なり、肴=魚 となって、魚(うお)を「さかな」と読むようになったとのこと。えー、
ホント、びっくり、そして納得。
確かに、「うお」は母音の重なりで発音しにくく、丁寧の「お」を付けると「おうお」。
漁業が盛んになり、「魚」を日常会話でよく使うようになった江戸後期において、魚(うお)が発音しやすい「さかな」に変わったのも頷ける。でも、上方のほうでは広まらなかった
ようで、この「さかな」は当時のいわゆる江戸っ子若者言葉だったのかも・・・。
そして明治以降、この「さかな」の読み方はどんどん全国に広まった。でも昭和21年の当用漢字表には、「うお」だけで、まだ載っていない。でも会話にはよく使われるように
なり、ようやく昭和48年(1973年)に「さかな」を正式に認めたとのこと。
えー、「さかな」の歴史はそんなに浅かったの・・・、日本語教師としても超驚きで
あった。
それ以降、「魚」の訓読みは「うお」か「さかな」か、どっちにしようか、複雑になった。「昔から(うお)があるのに、何で(さかな)など認めたのよ、ややこしいわよ」。
そんな魚ちゃんのぼやきが聞こえてきそうである。
実際、地域や年齢差、さらに言いやすさなども絡んでややこしい。「魚釣り」や「魚屋」などは「さかな」だが、「魚市場」や「魚河岸」などは「うお」のほうが落ち着く
感じが・・・。
そして、星座だが、いろいろな国の星座をまとめるべく、1920年代に国際天文学連合が設立され、ラテン語を訳してそれぞれ名前を決めたとのこと。そのころ日本はまだ
「さかな」の読み方は正式ではなく、当然、Pisces (パイシーズ)を「うお」と訳したのであろう。
さらに、「行く春や 鳥啼き魚の 目は泪」、これは「奥の細道」の旅立ちの句とされているが、もしもこの時代に「魚」に「さかな」の読み方があったら、芭蕉は字余りを心配して、この句を作らなかったのでは・・・、そんな余計な思いを巡らせてしまった。
昨今では、当然「さかな」が優勢であり、「魚」に関する古い慣用句なども「うお」から
「さかな」に変わってしまう傾向に。年寄り教師としては寂しい限りだが、言葉は世につれ変わりゆく・・・。 It is what it is !
「魚料理じゃなくて、先生の陰口を肴に一杯飲もう」 こんな生徒が現れないことを、
そして、いつまでも水を得た魚のように生き生きと元気に過ごせることを、さらに
読み方「うお」の踏ん張りを祈りつつ。
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