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  • 執筆者の写真矢野修三

「ことばの交差点」 14

                          日加トゥデイ 2024年2月号 掲載


◎ 日光は「結構」です !


 先ずは、こんな会話を・・・

お客 「これ、結構なメロンね~」

店主 「はい、結構売れていますよ。奥さんもいかがですか」

お客 「でも値段もなかなか結構ね、今日は持ち合わせがないから結構よ」

店主 「奥さん、お金なんかいつでも結構ですよ~」


 日本語における、曖昧な表現の一つとされているこの「結構」だが、日本人はこんなわざとらしい会話でも容易に理解できる。しかし日本語学習者にしてみれば大変、

「結構」ってどんな意味なのか、目を白黒させてしまう。確かに、この「結構」はいろいろな状況で使えるので、便利といえば便利だが、さまざまな意味を持っているので、

日本人でも結構誤解を招く恐れあり。


 さて、この「結構」の語源だが、家など建てるときの表現。「結」はひもで結ぶことで

あり、「構」は木などを構えること。すなわち、木と木をひもでしっかり結んで、念入りに構え、巧みに、家などを立派に作り上げる様子を表わす言葉とのこと。えー、びっくり。

それゆえ、当初は「素晴らしい」や「お見事」の意味として、「結構なお住まいですね」や「お味、まことに結構でございます」などであり、最高の褒め言葉として使われてきた。


 そこで「日光見ずして結構と言うなかれ」。こんな諺が韻も踏んでおり・・・、江戸で

大流行したようである。これは徳川家康公を奉る見事な東照宮がある「日光」を見ずに

「結構」という言葉は使っちゃダメ。それほど当時から東照宮はとても素晴らしかったようで、中学生のころ見にいったことがあるが、確かに「まことに結構でした」。


 しかし、この「結構」、時代とともに意味が広がって、「十分です」や「満足です」の

ような意味も加わった。さらに、「もう十分満足」の意味から、「遠慮する」や

「必要なし」などと,否定にも使われるようになり、日本人にとっても、ややこしい言葉になってしまった。


 例えば先輩から「ビール、もう一杯どう?」に対して「結構です」だけだと確かに分かりにくい。「結構ですねー」と「ね」を付けて、おどけた喜びを表すには効果的であり、

「もう結構です」と丁寧に断るのにも便利である。言い方や顔の表情などでも判断できるが、生徒にとっては難しいので、「ね」や「もう」が大事、と教えている。


 また、この「結構」を「思ったよりも」「完全ではないがそれなりに」などの意味でも使うようになり、これまたややこしい。奥さんが一生懸命作った料理を食べた旦那が

「結構おいしいね」と言ったら、夫婦喧嘩になる恐れも・・・。実に曖昧でややこしいが、面白みも。  


 さらに、上記の「お金はいつでも結構ですよ」である。これはいわゆる「OK」や

「大丈夫」などの遠回しの表現であり、相手に丁寧さを示したい場合などに用いられる。

例えば、お客さんなどに「少しぐらい遅れても結構ですよ」などである。ごもっとも。


 このように、この「結構」は時代ともに、いろいろな意味を持つようになり、間違いなく曖昧な言葉となってしまった。さぞかし徳川家康大権現も驚いているのでは・・・。

そして、もし「日光は結構です」を聞いたとしたら、「それなる、おぼめかしき(あいまいな)言い方は、まかりならぬ」との、お咎めが聞こえてきそうである。


 日本語教師としても、この「結構」を教えるのは結構大変だが、面白みも結構ある。

「はい、結構を教えるのは結構です」。 もう、どっちなのよ !





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