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執筆者の写真矢野修三

≪ことばの交差点≫ 23

                    日加トゥデイ 12月号掲載                               

☆ ワイングラス「数え方」の奥深さ !

  

 師走も半ば過ぎ、「今年も残り少なく・・・」こんな挨拶言葉がふさわしい時期になり、あちらこちらで色鮮やかなクリスマスのイルミネーションが目を楽しませてくれる。

忘年会など飲み会も重なり、何かと忙しい年の瀬である。


 飲み会といえば、カナダに移住してから、ワインを飲む機会が増え、だんだん好きに

なり、飲み会での、いかにも日本的なスタートの決まり文句、「最初はビールで・・・」が、今では「最初からワインで・・・」に変わってしまった。 

 

 そんなワイン好きな上級者と忘年会を行なった。居酒屋風パブで4人、輪になってワインを飲む「輪飲(ワイン)会」のスタート。早速「赤だ、白だ」と、いろいろワイン談義が始まり、特にS君はワイングラスの持ち方などにも結構うるさい。


 そこで、この機会にワイングラスの「数え方」を話題にした。先ず、日本語ではどんな

数え方をすると思うか、聞いてみた。すると「1個、2個」ですね。でも「1つ、2つ」かも、また「1本、2本」も・・・などいろいろな意見が出たが、何か特別な「数え方」がありそうですね。さすが、なかなか察しがよろしい。


 早速、ワイングラスを片手に、勉強会を始めた。先ず、「1本、2本」は、うーん、

気持ちはよく分るが、残念ながらワイングラスには使わない。でも「1個、2個」や

「1つ、2つ」はどちらも使われており、全く問題ない。 


 しかしながら、正式な数え方は・・・、ワイングラスの細長くなっていて、手で持つ

部分、英語ではステム(stem)だが、日本語では「脚」。この漢字の音読みは「キャク」、訓読みは「あし」であり、格式高い店などでは、「1脚(きゃく)、2脚(きゃく)」と数えるよ、と説明した。


 すると、なるほど、と感心しきり。加えて、お客さまに出すグラスの場合は

「おもてなし精神」を発揮して「お客」の「客」を使い、「1客、2客」と数える場合も

あると補足したら、びっくり。


 さらに、ワインが入っているグラスは中身、つまり「飲み物」に焦点を当てて、

「1杯、2杯」と数える場合もあり、と告げると、英語では考えられず、ちんぷんかんぷん。確かに、こんなこと生徒に教える必要はないが・・・、状況に応じて使い分ける日本語ならではの細かな表現方法。


 そこで、おまけにこんな話もつけ加えた。日本ではそろそろ年賀状を準備する時期。

でも最近はSNSなどの影響もあり、年賀状離れがかなり進んでいるようでさびしい限りだが、この年賀状の「数え方」である。


 間違いなく、買うときは「1枚、2枚」と数えるが、お正月に友達から届いた年賀状は、日本人はさり気なく、「1通、2通」と数えたくなる。それはお互いの心が通じたから「通」を使うんですよ、と講釈を垂れると、すごい、すごいの連発。教師として、

ほんわか気分に。


 こんな話をしていたら、ワインもかなり進んだ。そしてS君曰く、茶目っ気たっぷりに「脚の長いワイングラスを二脚買って、脚の長い彼女とボジョレーヌーボーが飲みたい

です」、さらに「日本語って本当に奥が深いですね。ワインと同じように」と、

締めの挨拶。奥が深い忘年会であった。




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