《ことばの交差点》16
- 矢野修三
- 2024年5月20日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年7月23日
日加トゥデイ 2024年5月号 掲載
☆ 「訪ねる」と「訪れる」 いと厄介 !
日本語教師として、日本語は難しいなどと、決して口には出したくない。でも、確かに
いろいろ難しさはある。その一つが「漢字」。こんな複雑な文字に、中国文化圏以外の国の学習者はなかなか馴染めず、学習意欲も湧いてこない。
まず、漢字にはいろいろな読み方があること。表音文字のアルファベットなどでは考え
られないが、はるか昔、中国から伝わった表意文字の漢字には音読み(中国式発音)や
訓読み(日本式発音)があり、複数の読み方があるのは致し方なし。
さらに、送り仮名によって読み方や意味が変わってしまうなど、日本人でも戸惑うことがあり・・・、生徒にとっては超難解である。しかし日本語をマスターするには、「漢字」は避けて通れず、何とか頑張ってもらいたい。でも漢字に面白さを見いだす生徒もおり、
うれしい限り。
そんな漢字に興味を持ち、前のエッセイ「日光は結構です」を読んだ上級者から、
今度日本に行ったら、ぜひ日光に行きたいですが・・・、「日光を訪ねる」と
「日光を訪れる」と、どちらがいいですか、どんな違いがありますか、こんな質問が舞い込んできてうれしいやら戸惑うやら。
確かに、この「訪」だが、送り仮名によって「訪(たず)ねる」と「訪(おとず)れる」と
読み方が変わるし、意味も若干違いがあり、とても厄介である。
漢字指導に決まりなどないが生徒に合わせて、いろいろ工夫を凝らしながら・・・。
この「訪」も先ずは音読みの「訪問する」を。さらにレベルが上がるにつれ、訓読みの
「訪ねる」や「訪れる」も教えたくなる。すると違いが気になる。英語ではすべて
「visit」であろう。でも日本人は習った記憶などないが、母語として何んとなく見事に
使い分けている。
先ず「訪ねる」だが、ある目的を持って人や場所に行く行動に。「訪問する」とほぼ同じで、「田中さん」や「○○会社」を訪ねる、である。一方「訪れる」は主に観光地などへの行動に。「壮大な景色のバンフを訪れる」などで、確かに「田中さんを訪れる」はチト違和感あり。でも「宅」を付け「田中さん宅を訪れる」は違和感なし。うーむ、なるほど。
そこで、「日光」は場所だから「日光を訪れる」のほうがふさわしいね、と彼に説明した。でも、日光に行って「徳川家康公」に会いたい、そんな思いが強ければ・・・、
「日光を訪ねる」も結構なのでは。うーん、ごもっとも。生徒にはあまり気にすること
ないよ、と教えたい。
しかし「訪れる」しか使えない表現もあるので要注意。「何か待ち望んでいる状況が
やってくること」。例えば「季節」や「平和」など。「やっと春が訪れた」や「訪れる」の名詞化した「訪れ」を使って「木の葉が色づき、秋の訪れを感じる」など。
単に「春や秋が来た」よりは、とても趣のある表現になり、使いこなせれば上級レベルの
証(あかし)で、教師冥利に尽きる思いである。
加えて、悲惨な戦火が一日も早く収まり、全世界に「平和が訪れる」。そんな日を願う
ばかりである。
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