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執筆者の写真矢野修三

《ことばの交差点》17

       日加トゥデイ 2024年6月号 掲載


☆ 「労る」と「労う」 も超やっかい !


 前回の「訪ねる」と「訪れる」のエッセイを読んでくださった日本のある方から、もっと

ややこしい「労る」と「労う」も記事に・・・との依頼があり、早速掲載する運びと

相成りました。


 うーん、確かに、この「労」も送り仮名によって読み方や意味が変わるので大変ややこしい。「労る」は「いたわる」、「労う」は「ねぎらう」である。漢字そのものはやさしいが、難読であり、読み方を尋ねられて、戸惑う日本人、かなり多し。でもこれには

ちゃんとした理由あり。


 この「労」という漢字は小学校で習う常用漢字。「労働」や「苦労」など・・・。

でも読み方は複雑。音読みの「ロウ」は常用漢字内だが、訓読みの「いたわ(る)」や

「ねぎら(う)」は常用漢字外の読み方であり、学校では習わない。それ故、読めないのは

当たり前。


 大人になって、「いたわる」や「ねぎらう」を話し言葉として覚え、使うようになるが、まさか漢字がこの「労」だとはなかなか想像できない。なぜなら、前述のごとく、訓読みの「労る」と「労う」は常用漢字外なので、公文書や新聞などには使えず、ひらがな書きにしなければダメであり、これらの漢字表記を目にすることはほとんどないので、馴染みがないのは当然である。でも読書好きな人は目にする機会も多く、すんなり読めてしまう。

ごもっとも。


 日本語教師として、もちろんこの漢字の「労る」や「労う」は上級レベルでも教え

ないが、万が一、読み方など質問されたら困るので・・・、

一応頭の中に入れておかねば。


 先ず、「労る・いたわる」だが、「労る」が正式な表記。でも読みやすくするために

「労わる」でも問題なし。基本的な意味は「優しくする」「親切にする」や「大事にする」であり、「お年寄りを労わる」や「疲れた体を労わる」など。某(それがし)もこんな使い方を・・・。「久々のゴルフだったが、結構いいスコアーが出たので、クラブに感謝、きれいに洗って、いたわってあげた」。なかなか粋な言い回しなり。


 一方「労う・ねぎらう」。これも感謝の気持ちを示す表現だが、ご馳走するなど具体的な行為を伴うのが一般的であり、さらに目上の人に用いるのはタブーとされている。

部長が部下の努力をねぎらってご馳走する、いわゆる慰労会などである。なるほど。


 すると、年寄りとしては「いたわってもらう」よりは「ねぎらってもらう」ほうが

もっとうれしいかも、ご馳走になれそうで・・・。いずれにせよ、「ひらがな書き」が

基本であり、漢字よりも柔らかさも感じるのでお勧めである。


おまけに、形容詞の「辛い」もややこしい。同じ送り仮名で読み方が二つ、

「からい」と「つらい」があるので教えるのも辛い。

「あの店の料理はとても辛かったので、とても辛かった」。

こんな文を作って、少しふざけながら楽しく教えている。ただし、「つらい」は常用漢字外であり、基本的にはひらがな書きだが、個人的なメールなどにはノープロブレム。


 すると、上の文の二つの「辛かった」、日本人は文脈から容易に判断できるが、

さて、今注目のAI翻訳機、貴方様はどう読んで、どのような英語に訳すか、

いと興味深いことなり。






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