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  • 執筆者の写真矢野修三

《ことばの交差点》18

                    日加トゥデイ 2024年7月号 掲載


☆ 文末の「ね」は難しいね !

 

日本語超上級者からおもしろいメールが届いた。「もし沖縄で日本語を勉強していたら、

先生に怒られませんでしたね(笑)」である。最初は意味がさっぱり分らなかったが・・・。こんな文章が続いた。「沖縄言葉についての『ことばの交差点11』を読んでそう思いましたね(笑)」である。


 それは少し前に沖縄言葉(うちなーぐち)について書いたエッセイで、沖縄では文末に「ね」をつけて、例えば、「ランチに行きましょうね」。これは別に相手を誘っている言葉ではなく、自分が一人でランチに行く意味だと分かってびっくり。でも沖縄言葉では、

このように会話文の最後に「ね」を付けるのが一般的で、確かに慣れれば温かみを感じる素敵な言い方。こんな内容であり、これを読んでの感想をユーモラスに書いて送ってくれたようである。


 そういえば、彼女は会話で、文の最後に、理由もなく、よく「ね」をつけていたことを

思い出した。例えば「出身はどこ?」の答えに「カルガリーですね」や「これから友達と

会いますね」などなど。何回か注意したことがある。うーん、でももし沖縄だったら、

注意されなかったかも。なるほど、ようやく彼女の言いたいことが分り、思わず笑って

しまった。


 この終助詞、文末の「ね」は日本語教師にとって、かなり骨が折れる。日常会話において「今日は暑いですね」などのように文末に「ね」をよく付ける。これは話し相手に親しさを表わしながら同意を求めているので、相手が「はい、暑いです」と「ね」を付けずに返事すると、かなり不自然な冷たい感じの会話になってしまう。その通りですね。


 そこで、生徒には会話における「ね」の重要性を教えなければ・・・。でも落とし穴が

待っている。文末「ね」は他の使い方もいろいろあり、相手を確認する、例えば、

「Aさんは大学生ですね?」に対して、しっかり「ね」を付けて、親しみを込めたつもりで、「はい、大学生ですね」と答える。うーん。気持ちは分かるが、でも、この場合は、「ね」を付けると不自然な会話になってしまう。こんなこと日本人にしてみればごく当たり前のことだが、生徒にすれば確かに難しい。


 レベルが上がるにつれ、なるべく日本語らしい自然な会話をしたくなり、「ね」をつければ親しみのある会話になると思って、どんな場合でもこの「ね」をつけてしまう生徒、

特に女性に多い。メールをくれた彼女もそう思っていたとのこと。アニメなどの影響大である。この文末の「ね」は会話に親しさや柔らかさを出すにはとても効果がある。依頼や誘いなどの「またお願いしますね」や「また一緒に飲もうね」など、確かに「ね」を付けると、とても効果的。


 でも、親しさを出すつもりで、単なる自分の行動に、「私はあしたウィスラーに行きますね」や「これからカラオケに行きますね」のように、「ね」を付けてしまうと、親しみどころか「そんなこと知らないよ、勝手に行けば」と相手は気分を害してしまう恐れあり。

さらに、「ありがとうね」などの「ね」はアクセントを変えることで、軽い感じの表現にも・・・。日本人は巧みに使い分けている。


 このように「ね」はいろいろな用例があり、日本語教師としては大変。結局のところ、「習うより慣れよ」(Practice makes perfect) で、「体で覚えてね」とアドバイスしたいね。そして、「ね」について、沖縄出身の日本語教師とお話したいね。

勝手にすればと怒られそう。



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