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執筆者の写真矢野修三

≪ことばの交差点≫ 22

           日加トゥデイ 2024年11月号 掲載


     「もみじ狩り」と「鷹狩り」の古き繋がり 


 紅葉も散り、冬の足音が間近に聞こえる今日この頃。味覚の秋や読書の秋を、そして素敵なもみじ狩りなどを楽しまれた方も多いのでは。でも、この「もみじ狩り」は日本語教師にとって、あまり楽しめない言葉である。


 一般的には、先ず「狩る」という動詞と一緒に「いちご狩り」や「きのこ狩り」などを

教えている。バンクーバー近郊ではブルーベリーがとても人気なので「ブルーベリー狩り」をいの一番に。


 そして紅葉の季節になると、この「もみじ狩り」が登場する。すると生徒は少しびっくり。もみじを狩って食べるのかと・・・。う-ん、確かにそのように思ってしまうのも頷ける。教え方のまずさを棚に上げて。そこで慌てて、この「狩る」には花や草木を観賞する

意味もあることを教えなければ。


 しかし手ごわい上級者は、なぜもみじを観賞するのに「狩り」という言葉を使いますか? 「もみじ観賞」のほうが分かりやすいです。うーん、いかにもその通りで、説明に困ってしまう。さらに、「鷹狩り」がお出ましになると・・・、「うさぎ狩り」などの言葉を知っている生徒は、当然、鷹(hawk)を捕まえることですね、となる。またまた、うーん、と唸ってしまう。


 確かに、なぜ「もみじ」や「鷹」に「狩り」を使うのか・・・。日本人は母語として、

それなりにちゃんと理解できるが、この語源を把握するには奈良・平安時代まで遡らねば。当時、貴族の間では鷹を飼い慣らして、「うさぎ」や「鳥」などを捕まえる遊びが盛んだったとのこと。権力を示す儀式として、「鷹狩り」と呼ばれていた。調べてみると、源氏物語などにも載っており、びっくり。


 自然豊かな野山で「鷹狩り」をしていると、当然美しい草木、特に春の「桜」や秋の

「もみじ」が目に入る。「鷹狩り」と一緒に「桜」や「もみじ」を楽しむ。そこで、この「狩り」を使って「桜狩り」や「もみじ狩り」という言葉ができた。えー、またびっくり。少々ふざけた、でも粋な名前の付け方。「鷹狩り」から「桜狩り」や「もみじ狩り」が生まれたようで、これらには驚きの古き繋がりが・・・。


 でも「桜狩り」は桜を庭園などに移植して、近場で楽しむようになり、わざわざ出かける必要もなく、名前も「お花見」に変わり、明治以降はほとんど死語になってしまった。

確かに。加えて、時代とともに一般庶民も「いちご」や「きのこ」などの本来の「狩り」を楽しむようになり、いわゆる「いちご狩り」や「きのこ狩り」などの言葉を使うようになったとのこと。なるほど。


 それにしても、そんな古き奈良・平安の頃から「鷹狩り」があったとは・・・。戦国時代の織田信長や徳川家康が好んでいたことはテレビドラマなどで知っていたが、またまたびっくり。


 しかし、もっと驚いたことは、この「鷹狩り」、てっきり日本特有の文化だと思い込んでいたが、そのルーツは今からナント約3~4000年前ごろ、中央アジアの遊牧民の間で行なわれていたようで、当時は重要な狩猟方法だった。


 長い年月を経て、ローマ帝国からヨーロッパにも伝わり、日本には中国から奈良時代ごろ伝来してきたとのこと。日本書紀にも載っているようで、正に驚きの連続。中世のイギリスでは王族や貴族の娯楽やステータスの象徴として「falconry」(鷹狩り)が盛んだったようで・・・。このようなこと、この歳になるまで全く存ぜず、恥ずかしき限りなり。


 これからは、歴史の流れをきちんと整理して、歴史通り「鷹狩り」から順番に教えていけば、生徒も分かりやすいのでは・・・、この古き「もみじ狩り」を通して新しき発見、まさに「温故知新」。言葉が繋ぐ過去と現在。今さらながら、日本語の奥深さに心打たれた思い

である。






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