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  • 執筆者の写真矢野修三

外から見る日本語 230

                       2021年7月 バンクーバー新報掲載   

☆ 「日本語上達のコツ」の「コツ」は ?

日本語学習において、いろいろなことが気になる上級者から質問があるというので少し緊張した。「先生、日本語上達のコツは何ですか?」である。ナンだそんなことかとホッとしたが、そんな簡単ではなく、彼の質問は続いた。「この『コツ』はカタカナで書いてありますが、何の省略ですか」である。


 この「コツ」に関する質問は日本語教師になって、今までに何回か受けたことがある。

確かに日本語学習者、特に上級者になると、意味は理解できるが、「コツ」の語源が気になるようである。カタカナで書いてある「コツ」を見て、彼は外来語だと思った。「コネ」が「コネクション」、「アニメ」が「アニメーション」であるように、「コツ」は何の省略なのか、英語が母語である彼としては、とても気になったとのこと。なるほど。


 我々日本人はこんなことほとんど意識したことないし、コツはコツであり、語源など考えたこともない。でも、この「コツ」は「仕事のコツ」や「ゴルフ上達のコツ」、また

「コツをつかんだ」など、会話にもよく使うし、広告記事などでもよく目にする。改めて、なぜ「コツ」なのか、なぜ「カタカナ」なのか、と質問されると、確かに困ってしまう。


 この「コツをつかむ」を漢字で書くと「骨を掴む」である。そう、「コツ」は「骨」であり、略語などではない。「骨」は身体の中心にあり、体を支える大事なもの。そこから物事の本質や要領、大事なポイントなどを意味するようになり、音読みの「コツ」を使って、「着付けのコツ」や「お点前のコツ」などいろいろな表現ができた。かなり昔からあった

ようである。


 表記として昔は漢字の「骨」を書いていたようだが、「ほね」と読まれては困るし、

「ゴルフ上達の骨」では何となく馴染めず、漢字の「骨」は使いたくない。もちろん、

ひらがなの「こつ」でも問題ないが、辞書などに「音読み」はカタカナで書いてあるので、カタカナの「コツ」のほうがしっくりする。決まりなどないが、現在ではカタカナ表記が

一般的になっている。


 この「コツ」を英語に訳すと、場面や状況などにより、いろいろな単語や言い方があるとのこと。「日本語上達のコツ」を彼は「Tips for improving Japanese」と訳した。

「tip」である。レストランなどで支払いのときの、あのチップと同じ。えー、びっくり。そこで、「チップをはずめば、チップを教えてやるよ」と、思わず口から出てしまった。

長引くコロナパンデミック、元気に楽しく生きるコツをつかみたいものである。

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