バンクーバー新報のオンライン版 3月号
☆ 「見る」と「観る」の使い分け
久しぶりに日本語上級者数名と同窓会を行なった。その中の
一人、K君は学生時代、選手だったようで、サッカー大好き人間。
去年カタールで開かれたワールドカップの話をすると、大はしゃぎ。いろいろな話題に
花が咲いた。カナダは決勝トーナメントには出られなかったが、日本は堂々進出。
「サムライ ブルー」として、大会を大いに盛り上げた。
そのK君から「テレビにくぎ付けになりました」との発言があり、この表現とても格好
いいですね、である。さすが上級者。ところで英語では、と聞くと、日本語のように
決まった言い方はないですが、「I was glued to the TV」かな・・・。なるほど、
英語もなかなか格好いい!
さらに、こんな質問が、テレビを「見る」と「観る」の違いである。これは上級レベルの生徒からよく受ける質問だが、この違い、漢字の意味が分からないと、確かに難しい。
日本語教育では先ず「見る」を教え、中級で「観」を導入する。「観賞」や「観光」などである。そこで、「見る」は自然に目に、「観る」は意識して目を向けるニュアンスを
教えたく、こんな例文を、「見る」は「食事をしながら、テレビを見る」で、「観る」は「じっくりテレビドラマを観る」、である。我々日本人は何となく身についているので、
劇場での芝居や映画などはやはり「観る」のほうがふさわしいと感じる人が多いのでは。
でも、ややこしいことが、もちろん「見」も「観」も常用漢字(国が定めた、よく使われる漢字)であるが、なぜか「観」は音読み(中国式読み方)の「カン」だけで、
訓読み(日本式読み方)の「み(る)」は入っておらず、不思議である。常用外なので、公式な文書に「映画を観る」はダメ。もちろん、個人のメールやブログなどには全く問題ないの
だが・・・。日本語教師としても説明に困る。ぜひ「観」の訓読み「み(る)」も常用内に
入れてもらいたい。
軽く一杯飲みながら、こんな話をしていたら、大事なシュートの場面を見逃してしまったんですが、この場合は「見逃した」よりは「観逃した」のほうがいいですね。すると他の生徒も、美しい女性に「見とれた」よりも、じっと見ていたので、
「観とれた」のほうが・・・。うーん、いかにも上級者ならではの鋭くておもろい発想。
びっくりである。
最後に、将来W杯の決勝戦で日本とカナダが戦うことになったら、どっちを応援するか、と意地悪な質問をしたら、そんなこと「朝日が西から出る」くらいあり得ないと・・・、
軽く、見事にかわされてしまった。「You got me.」(参った)。サッカーのおかげで
大いに盛り上がり、教師冥利に尽きる思いのひと時であった。